ラスベガスをぶっつぶせ ‐確率で科学するギャンブル‐

ラスベガスをぶっつぶせ ‐確率で科学するギャンブル‐

「ラスベガスをぶっつぶせ」という映画をご存じだろうか。アメリカで以前ヒットした映画で、マサチューセッツ工科大の学生を中心に構成されたチームがブラックジャックの高度なスキルである「カウンティング」という技術を駆使してラスベガスを荒らしまわるという物語である。アカデミー賞を獲得した「レインマン」も同じ「カウンティング」の話である。

私は取っていないものの、MBAの統計関連の授業でこの「カウンティング」を題材に、どのくらいカジノで利益を出すことができるか計算しようという面白い課題があったらしい。ところが調べたところ、複数のデッキを使用し頻繁にシャッフルする現在のカジノでこの「カウンティング」は実質ほぼ不可能となっており、ブラックジャックで「ラスベガスをぶっつぶせ」を再現するのは残念ながら不可能である。

そこで、現代版「ラスベガスをぶっつぶせ」を再現できないか調査してみた。ちなみ私はギャンブル狂でもなんでもないのであしからず。あくまで授業の応用です。

候補になり得たのは「ビデオポーカー」というマシン。それ以外のラスベガスにあるゲームはハウス側の利益が大きすぎて話にならず断念。

http://www.vpfree2.com/casinos/by-region/las-vegas.html

こちらのサイトに各種ビデオポーカーのペイアウト率と設置店の記載がある。ペイアウト率100%以上ということは、即ちパーフェクトにプレイしながら長期的に確率が収束していけば、必ずプラスになるということである。

しかし、高ペイアウト率のマシンはとことん低予算マシンとなっており、最高のペイアウト率101.6%の5セントマシンをひーひー言いながら一日5,000回プレイしたとして、5セント×5(5枚掛け)×500×1.6%でなんとビックリ!平均一日20ドルの儲けにしかならない。これでは仕事上がりの一杯もままならない。

そこで趣向を変え、プレイすることでもらえるポイントを考慮してそれでトータル100%を超えないだろうかと考えることに。そこで目を付けたのはラスベガス最大のエンターテインメントグループMGM。ここはスロットクラブへの加入でコンプボーナス(食事など)が消費額の0.1%分、プレイポイントボーナス0.1%分、HGSというポイントが0.033%分(概算)で付く。さらに、最高のメンバーシップNoirとなれば、それぞれのボーナスが×1.4倍になる太っ腹ぶりである。

MGMグループが設置する最もペイアウトの良い台はJB9/6という機種で99.54%のペイアウト率。そこでNoirメンバーだったとしてトータルどの程度のペイアウトになるのか計算してみることに。

99.54%+(0.1%+0.1%+0.033%)×1.4=99.862%

やっぱりダメでした。確率が長期的に収束すれば確実に損します。さすがにうまくできている。

今度はまた目標を変え、多少損が出ることは目をつむってゼロの状態からMGM最高のステータスNoirを目指してみるのはどうだろうかと考えてみる。NoirになればMGM系列のホテルでショッピングが30%割引になるほか、ほぼ全ての行列をカットでき、さらにはホテルのスイートに無料で泊まれたり、空港からの送迎があったり、ラウンジが使用できたりとVIPサービスが盛りだくさんなのである。そこで得意のモンテカルロシミュレーションを駆使してNoirステータス獲得のためのシミュレーションをしてみることにした。計算は損が最少、かかる時間が短く、そしてボラティリティができるだけ小さくなるようにJB9/6の1ドルかけ10ラインをベースにした。100ドルかけの機種ならすぐに達成できるが、ボラティリティが高くなりすぎてしまい、よほどのハイローラーでなければ大損の危険があって難しい。ある程度回数をこなして確率を収束させる必要があるのである。

【前提条件】

1.    Noir達成のために必要なTierクレジットを推定100万とする。(Noirはインビテーションオンリーだが、ネットの情報を総合するとそのあたりが妥当)ただし、途中ステータスが上がっていくなかでTierクレジットの獲得にボーナスが付くため、それを考慮し実質79万Tierクレジットの獲得でNoirが獲得できることとする。

2.    10ドルの消費で1Tierクレジットを獲得する。

3.    ビデオポーカーのボラティリティ(標準偏差)は

http://wizardofodds.com/games/video-poker/appendix/3/

を参考にして計算する。

4.    現金と同等の価値を持つ各種ポイントはシンプルに収入として計算する。各Tierボーナスも考慮する。

5.    モンテカルロシミュレーションにはExcel用アドオンの「@risk」を使用する。

6.    一度のミスもないと仮定する(Winpokerというアプリがあれば100%パーフェクトにプレイすることが可能)。

7.    1時間のプレイで500ハンドプレイできるものとする。

上記条件を基にモンテカルロシミュレーションを1,000回回して得られたのが以下の結果である。

平均収入: $-1311.52 (理論値$-1309.59)

儲かる確率: 45.7%

$5,000以上儲かる確率: 30.1%

$10,000以上儲かる確率: 17.5%

$5,000以上損する確率: 38.1%

$10,000以上損する確率: 23.7%

取得にかかる時間=トータル158,000ハンド÷1時間500ハンド=316時間

一番損とボラティリティが少なくなる方法を持ってしても$10,000以上損する確率が23.7%もある。そして316時間ミスなくプレイしなければならない。寝ずに頑張ったとしても13日と6時間かかる。2週間の旅行ではほぼ不可能だ。$100かけマシン×10ラインであればたったの3時間余りで達成できるが、標準偏差が$121,238.7という恐ろしい数字になり、$100,000以上(1千万円以上!)の損が出る可能性が20.8%もある。

平均の$-1311.52で最高のホテルの最高のステータスが獲得できると考えれば、よくラスベガスに行くかたであれば十分元が取れるほどのサービスが受けられることで間違いない。ただし、予算が$10,000程度ではあっさり溶けてグッバイベガスとなる可能性がかなり高い。また、一人で頑張ることを仮定すると最低1か月程度は滞在しないといけない上に、ポイントは1年に1回リセットがかかる。

いかにNoir獲得が難しいか理解いただけただろうか。多分途中で多くの人が面倒になって読むのをやめていると思う。しかし、どうしても世界最大のカジノグループで上位0.1%と言われるハイローラーNoirの称号を獲得し、額縁に飾りたいという人もいるだろう。そんな人のためへの攻略を考えてみた。

1.    ローローラー(一般人)向け: 一般人にはどうやっても無理です。ありがとうございました。

2.    ミドルローラー(そこそこ富裕層)向け: 予算は最低$30,000用意すること。友人や奥様と2人で行って同じアカウントのカードを2枚発行してもらい、ポイントを合算する。2週間の旅行で最低1日12時間プレイする。ご飯は全部コンプで1日1食。その他娯楽は一切禁止。ストイックに自分と戦い続けること。

3.    ハイローラー(超金持ち)向け: 予算は最低$300,000用意し、一般フロアに目もくれずハイリミットルームに直行すること。3時間まったりマティーニを楽しみながらエンジョイすること。

ギャンブルも確率論で考えてみるとなかなか奥が深いものである。では、そろそろ宿題やることにします。。時間使いすぎた。

1

 

計算の残骸。

Comments are closed.